日本政策金融公庫の融資の相談を受けていて
もっとも多い質問は、「いったい、いくら借りられるのか?」という質問です。
公庫からいくら借りられるのか?
という質問に答えがあるとすれば、
それは公庫で作成している財務分析の指標と照らすことで見つかるのかもしれません。
日本政策金融公庫では、業種別経営指標というものを作成しています。
それはいうなれば、その業種の経営状態の平均点といったところでしょうか・・・
この業種別経営指標ですが使いこなすためには
簡単に財務分析の指標をおさらいしておく必要があります。
私もある歯科医院の決算書と業種別経営指標を見比べてみたことがありますが、
この指標通りなら、平均点というより、合格点に近いという印象を持ちました。
実際に日本政策金融公庫の融資を受けようとする場合、
この指標通りにいかないとまずいというものでもありません。
今回は、簡単な財務分析の指標を解説してみます。
なお、日本政策金融公庫の業種別経営指標は、
業種ごとに○○比率、○○回転期間などといった指標が30項目くらいあります。
今回取り上げるのは、そのすべてではありませんが、
財務分析の指標を性質ごとに
と4つに区分してみました。
創業段階では、③の安全性の分析をしっかり行ったうえで、
創業計画書を書くことをおすすめします。
儲かる体質かどうかを診断します。
売上高総利益率(%)=売上総利益÷売上高×100(高いほうが望ましいです。)
売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100(高いほうが望ましいです。)
売上高経常利益率(%)=経常利益÷売上高×100(高いほうが望ましいです。)
売上高当期利益率(%)=当期利益÷売上高×100(高いほうが望ましいです。)
ここまでは、損益計算書のみを使用します。
自己資本経常利益率(%)=経常利益÷自己資本×100(高いほうが望ましいです。)
総資本経常利益率(%)=経常利益÷総資本×100(高いほうが望ましいです。)
経常利益は損益計算書、自己資本や総資本は、貸借対照表から数字を拾います。
効率よくお金を使えているかどうかを診断します。
総資本回転率=売上高÷総資本(高いほうが望ましいです。)
回転率が大きいほど、少ない資本で多くの売上を獲得していることになります。
棚卸資産回転日数=棚卸資産÷売上高×365日
何日分の在庫が残っているかを見ます。低すぎる場合、税務署から
棚卸の除外により、脱税しているのではないかと疑われることもあります。
売上債権回転日数=売上債権÷売上高×365日
売上のサイクルを示します。多すぎると、実際より売上債権を多く計上し、
粉飾していると疑われることもあります。
仕入債務回転日数=仕入債務÷売上高×365日
仕入のサイクルを示します。
会社が安定しているか診断します。貸借対象表を使います。
流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100(目標200%以上)
短期の支払い能力をみます。
自己資本比率(%)=自己資本÷総資産×100(目標30%以上)
財務分析で最も重要な指標です。まだでしたら、ぜひ、チェックしてください。
日本政策金融公庫の創業融資では形式的には自己資金は1/10ともいわれますが、
実際は1/3~1/4くらいあったほうがいいです。
過去に公庫から融資を借りるのをお手伝いした事業者のかたでも、
1/10ギリギリだと、数か月で資金がなくなりかけたかたもいます。
自己資金に関しては0でも借りられるかという相談が
後を絶ちませんが、創業後のことも考えてたくさんあったほうがいいです。
なお、創業後、人を雇う場合は、
生産性の分析も必要となります。
ヒトに稼ぐ力があるかを診断します。
1人当たり売上高=売上高÷従業員数
1人当たり経常利益=経常利益÷従業員数
労働分配率(%)=人件費÷粗利益×100(おおむね50%程度)
労働分配率とは、会社が生み出した価値をどれだけヒトに分配しているかを
見る指標です。たくさん分配したいと思うひとがいますが、
分配しすぎると、会社にお金が残らず、借入をすることになりかねません。
人件費には、役員報酬、賃金、賞与、雑給、法定福利費、福利厚生費、退職金
がふくまれます。
粗利益は売上から材料費や外注費、商品仕入をひいたものです。
個人で事業をはじめようとする方は、
生産性の分析までしなくても大丈夫かと思いますが、
会社を作って従業員が増え、社会保険料の負担が重くなってくると、
資金繰りの改善にあたり、生産性の分析は不可欠となってきます。
日本政策金融公庫の業種別経営指標は、
どちらかというと、創業期よりも安定期となり、
ある程度、事業が軌道にのった段階で経営計画を作成する際に役立つと思います。
参考までに簡単な財務分析の指標を理解し、
こうした業種別経営指標と乖離がないかもチェックするとよいでしょう。
こうして数字をチェックする習慣が、
その後の経営にも役立つと思います。
もっとも、こうした経営指標通りいかなくても
必要以上に不安がることはありません。
その場合は、身近な専門家に相談し、
適切な対応をとるようにしてはいかがでしょうか?